千葉の郷土料理「太巻き祭りずし」を訪ねて2022.06.02

千葉の郷土料理「太巻き祭りずし」を訪ねて

1期生の塚田節子さんは千葉県君津市のご出身で、子どもの頃から「太巻き祭り寿司」に親しんでいらっしゃいました。 千葉の巻き寿司は郷土料理としてどのように発展してきたのでしょうか。塚田さんのご母堂、岡田美代さん(1922年10月12日生)にお話を伺うため、千賀子先生が晩秋の房総半島を訪ねました。


 

実り豊かな里山で

1938年頃、私は茨城県にある国民高等女学校に通っていました。同級生は86名、全国から勉強に来ていて千葉県の生徒は2人だけでした。学校では詩吟やお灸など様々な課目を勉強することができて、とても楽しかった思い出があります。
戦争から帰ってきた主人とお見合いで一緒になったのは、卒業からしばらくしてのこと。2人で農家をして、それはもう朝も晩も一生懸命に働きました。お陰様で今ではひ孫が13人、お年頭ともなれば実家に30名程の家族が集まります。

巻き寿司の記憶を辿ると、子供の頃までさかのぼります。
母と兄夫婦が番子(ばんこ)さんに巻き寿司のつくり方を教えてもらっていたのをよく覚えています。番子さんは、お祝いごとなどのときに料理番をつとめる人のことで、出張料理教室を生業のひとつにしていました。私の家に来てくれた番子さんは、小糸地区で農家をしていた男性でした。

少し大きくなると私も母や義姉からつくり方を教わりました。余所の家にお祝いごとがあると、朝早くそのお家に出向き巻き寿司を巻いてあげたものです。結婚式ともなれば近所の腕自慢たちがリハーサルをして本番に臨みます。私は「亀」が得意でよくつくりました。すし飯で山と谷をつくって干瓢をのせて、外側は卵か海苔で巻きます。当時のことを思い出すと今でも胸が躍ります。


 

それから、仏事でも巻き寿司を頼まれることがありました。昔は自宅で通夜振る舞いなどがありましたから。そういうときは華やかな色合いの食材は避けて、地味な色の食材に代えてお出ししたりしていました。

味付けを工夫するとみんなが美味しいと喜んでくれるので、自分なりに研究しました。農家で鶏も飼っていたので、巻き寿司に使う食材はすべて自分の家でつくっているものばかり。海苔は浜辺の家に嫁いだ妹がよく届けてくれました。あちらはお魚や海苔、こちらはお米や卵とよく物々交換をしたものです。房総地方の「海の幸」と「山の幸」が、私たちの巻き寿司を育んでくれました。

 

 

家族が紡ぐ物語

子どもたちの運動会にも、いつも巻き寿司をつくっていました。「チューリップ」や「かたつむり」の巻き寿司が人気でした。長女や次女の頃は、周りの家庭も巻き寿司をつくっていたようです。しかし、歳の離れた末娘の頃になると手軽にできる「おにぎり」が主流でした。きっとあの頃から、家庭の食卓が少しずつ変化してきたのでしょう。

それでも、娘たちが嫁ぐときには「巻き寿司のチューリップくらいは覚えておいて欲しい」と思って、つくり方を教えました。なぜなら、私自身が母や義姉に巻き寿司のつくり方を教わっておいて、本当によかったって感謝していたからです。

 

 

今では、娘たちにもそれぞれ孫がいますが、みんな巻き寿司と縁のある人生を送っています。
長女は、絵巻寿司検定協会で講師をさせてもらっています。次女は、嫁ぎ先の婦人会でよい巻き寿司の先生と仲間に巡り会えたようです。3女は、お総菜屋さんで働いていたとき、朝3時から100人分くらいの巻き寿司をつくることもあったそうです。4女は、孫たちにせがまれて巻き寿司をつくってあげていると、嬉しそうに話してくれました。どうやら4人とも、嫁いでからの方が巻き寿司により興味が出てきたようです。

以前、娘にすし飯のつくり方を教えていたとき「お母さんはやっぱりすごい先生ね。とても勉強になるわ」としきりに感心しているのです。ですから私は、「いえいえ、今では私よりもあなたたちの方が立派な巻き寿司の先生ですよ」と伝えました。

巻き寿司をつくっていると子ども時代の記憶が、ふと頭をよぎることがあります。家族と自分が今でもつながっていると実感できること。これも、巻き寿司づくりの喜びの一つなのだと思います。

 

 

取材を終えて

今回、塚田さんのお母様にお話をお伺いして、千葉の巻き寿司のルーツを探ることができました。房総の食文化を紡ぐ2つの鍵は、「実り豊かな里山」と「家族の愛情」でした。絵巻き寿司インストラクターの皆さんも機会がありましたら、ぜひ千葉県に足を運んでみてください。

 

太巻き祭り寿司を購入できる施設:
道の駅「保田小学校」
〒299-1902 千葉県安房郡鋸南町保田724
(地図を表示)
道の駅「富楽里とみやま」
〒299-2214 千葉県南房総市二部1900
(地図を表示)

 

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